けんぽの部屋

2019/02/26

「乳がん(みそ汁の摂取が多いほど、乳がんになりにくい!?)」   健セ産業医 小田部圭子

 

 

 約20年前、日本人の死因第1位は「胃がん」でした。そこで胃カメラをしようと考えてから幾年月。ピロリ除菌も保険適用となり、とうとう胃がんは第3位になりました。そして「平成」ももうすぐ終わる今日このごろ、安栄な世が続くと良いなあと思いつつ医学の益々の進歩に期待しております。

 今回は「胃がん」の次に以前から気になっている「乳がん」について纏めてみました。乳がんは、がんのなかでも、日本女性がかかる割合(罹患率)がトップであり、その罹患率は増加の一途をたどっています。生涯のうちに乳がんになる女性の割合は、50年前は50人に1人でしたが、現在は12人に1人 と言われており、年間約9万人以上が乳がんと診断されています。また、乳がんで死亡する女性の割合も年々増加の傾向にあり、年間約1万3,000人が亡くなっています。

 「乳がん」は男性の「前立腺がん」に比べ、腫瘍マーカーが上がってからでは進行していることが多く、スクリーニングが難しいという難点があります。また、患者さんの多くが自分で見つけて受診される方が多いのも特徴です。年1回の検診ももちろん大切ですが、乳房は他の臓器と比べ自分で検診できるという大きな特徴があります。ぜひ自分の普段の乳房をよく把握しておいて、早期治療が可能になるように、月に1回のセルフチェックを習慣にしましょう。また日本人の乳房は「高濃度乳房」という乳がんが見つけにくいタイプの方が多く、自分がこのタイプかどうかを知っておくことも大切です。できるだけ早期のしこりや変化を見つけるため、「毎月自己チェック予防と年一回検診(マンモグラフィーや乳房エコー)」をぜひ心がけましょう。

 今回は女性の方がメインの内容になりますが(男性乳がんの方も時々いらっしゃいます)、この機会にぜひ周囲の大切な女性にもセルフチェックと検診の大切さを広めていただければ幸いです。

 

 

図1 日本女性における乳がんの年齢調整罹患率・死亡率の推移

出典:独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター:地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(2008年)、人口動態統計によるがん死亡データ(2012年)

 

 年代別では、乳がんの罹患率は30歳台後半から増加し始め、40歳台後半から50歳台前半でピークになります。これは、乳がんが、女性の働き盛りを襲う疾患であることを示しています。さらに、閉経後の60歳台前半で再びピークを迎える傾向があります。また、まれですが20歳台でも乳がんにかかることもあります。

 日本ではマンモグラフィ検査による乳がん検診は放射線被ばくの議論もあり40歳以上に推奨されているため、それより若年層では乳がんの早期発見が難しく、病状が進んだ状態で診断されることが多くなっています。早期発見のためには、30歳台後半から超音波検査による検診や、視触診による自己検診を習慣づけるなどの注意が必要です。

 

 

<乳がんが増加した理由>

 乳がんの原因ははっきりと解明されていませんが、女性ホルモンの1つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)は乳がんのがん細胞を増殖させることが知られています。食生活の欧米化に伴い、高タンパク・高脂肪の食事が増えて体格が良くなった結果、初潮が早く閉経は遅い人が増えました。さらに、女性の社会進出の増加によって、妊娠・出産を経験する人が減少し、女性が生涯に経験する月経の回数が多くなりました。月経中はエストロゲンが多量に分泌されるため、この回数が増えたことが、乳がんの発生と進行に影響を及ぼしている可能性があります。

 

<乳がんになりやすい要因>

 習慣:閉経後の肥満 ・ アルコール飲料の摂取 ・ 喫煙

 体質:糖尿病 ・ 乳腺濃度が高い

 内服:エストロゲンとプロゲスチンを併用するホルモン補充療法

    経口避妊薬の長期間の服用

 月経:出産経験がない ・ 初産年齢が高い ・ 授乳経験がない

    初経年齢が早い ・ 閉経年齢が遅い

 遺伝:家系内に乳がん患者さんがいる ・ 卵巣がんにかかった人が家系内にいる

 出典:日本乳癌学会 患者さんのための乳がん診療ガイドライン(2016年版)

 

<自己チェックのタイミング>

 月経が終わって一週間以内の乳腺の張りがなく柔らかな時(子宮全摘をした方は張りのない時)。閉経後の方は、毎月一回、日にちを決めて実行。自分の乳房の状態をよく把握しておくことが変化に気付く第一歩です。

①乳房の変形や左右差がないか

②しこりがないか

③ひきつれがないか

④えくぼのようなへこみがないか

⑤ただれがないか

⑥出血や異常な分泌物がないか

 

乳がんは、左右の乳房ともに「外側の上部」に発生しやすいので、特に注意して調べましょう。

 

<「しこり」の9割は良性>

 乳頭(乳首)から乳房全体に放射状に広がる乳腺にできる、乳房がなんとなく硬くふれる部分「しこり」は多くの乳がんで認められますが、乳腺炎などの良性の病気でも見られ、乳腺にできる「しこり」の80~90%は良性(乳腺症、線維腺種、嚢胞、葉状腫瘍など)だと言われています。また、左右同じような場所にある場合は、乳腺の一部である可能性が大きいので、数週間後に再度触って確かめてみましょう。(心配しすぎず経過観察)
 良性のしこりの一部は比較的弾力があり、ころころと動く傾向が見られます。これに対して乳がんのしこりは、かなり硬い傾向があります。また、がんが周囲の組織とくっつくため、しこりがあまり動かないのも特徴です。とはいえ、自己判断は禁物。乳がんか、そうでないかを診断するためには、躊躇せずに専門医を受診する必要があります。

乳腺専門クリニックでは次のような検査法があります。

受診に適した時期は乳腺の張りの無い時期が最も適しており,生理終了後一週間くらいの時期が適しているといえます。生理前は最も張ってくる時期なので避けましょう。

 

<マンモグラフィ(高濃度乳房)

 乳房は乳腺と脂肪により構成されていますが、このうち脂肪の割合が2割以下のものを高濃度乳房といいます。乳腺は加齢とともに徐々に脂肪に置換されていきますが、日本人は痩せ型が多いこともあり脂肪の割合が少ないのが特徴といわれ、乳がんの所見が見つけづらい「不均一高濃度」の乳房構成の方が多くなっています。「高濃度乳房」と指摘された方は「がん」が見つかりにくいため、乳腺エコーとマンモグラフィの両方をお受けになることをお勧めします。

小さなしこりとして現れる乳がんは乳腺エコーが描出に優れていますし、
小さな石灰化として現れる乳がんはマンモグラフィが描出に優れています。

 

<予防について>

 あるグループが平成2年(1990年)に行ったアンケート調査にて(40〜59歳の女性約2万人の方々を、10 年間追跡した調査結果)、大豆製品の摂取量、それから計算されるイソフラボンの摂取量と女性乳がん発生率との関係を調べたものがあります (Journal of National Cancer Institute 2003年95巻906-913ページ)。

 アンケートの「みそ汁」、「大豆、豆腐、油揚、納豆」の項目を用いて大豆製品の摂取量を把握し、その後に発生した乳がんとの関連を調べたものです。たとえば1日3杯以上みそ汁を飲む人達で乳がんの発生率が0.6倍、つまり40%減少しているということになります。

 

 

 イソフラボンは植物性ホルモンといわれる物質で、化学構造が女性ホルモンに似ています。女性ホルモンは乳がんの発生を促進することが知られていますが、イソフラボンは女性ホルモンを邪魔することによって乳がんを予防する効果があるのではないかと考えられています。実際、動物実験などではその予防効果が示されていました。但し、みそ汁をたくさん飲むと塩分を多く取ることになり、塩分の取りすぎは胃がんや高血圧などの他の生活習慣病の危険因子だといわれています。イソフラボンが乳がんを予防するかどうかはまだ証拠が十分とはいえませんが、イソフラボン摂取のためにはみそ汁だけでなく、大豆製品をバランスよくとることが大切と考えられます。